花の降る午後に

~宮本輝さんへの手紙~

【10】『彗星物語』 宮本輝著

宮本輝さま

先日は思いがけずお会いできまして本当に嬉しかったです。
お元気そうでとても安心致しました。お別れの時は大声で叫んでしまいました。
曲がり角で手を上げて下さいましたが、きっと苦笑いされていたことでしょう。
お忙しい中、ありがとうございました。
今日は『彗星物語』を読みましたのでお便りさせて頂きます。 

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梅雨が近づきますと必ず思い出すのは『彗星物語』です。
何故なら、物語の中で ハンガリーからの留学生『ボラージュ』が、粘り着く湿気に、身体から精神にまで支障をきたす事態になったことが印象に残っているからです。この物語がテレビドラマ化されたことを近年になってから知りました。このように、軽くて楽しいタッチで筋を追うことは読書の一番の醍醐味です。 私もその中に潜り込み、ひと時の安らぎが欲しかったのだろうと思います。繰り返し読んだ数年は、様々な理由から我が家は突然の大家族になっていました。夜、やっと家事を終え、この本を持ってベッドに潜り込み、疲れた身体を横たえながら、ひと時の安らぎをもてることで日々を乗り越えられた気がしております。
まして、これが、全くの架空のものではなく、本当に一人の異国の青年を御自宅に預かり、衣食住から神戸大学大学院の学費など、様々なお世話をされていたことを知りとても感激致しました。

現在『ボラージュ』はハンガリー駐日大使館「特命大使」となられて、日本に駐在されています。なんという奇跡のような出来事でしょう!    過日、神戸で大使館主催の彼の講演会があった折には 、夢中で一目『ボラージュ』に会いたいと駆けつけたりも致しました。『ボラージュ』は優しくて紳士でとても素敵な方でした。こんな風に、物語に俄然、現実味が加わり読む度にその頃、我が家の居候だった人たちを、また長く病いにあった義父を、預かって我が家で飼うことになった2匹の犬達を、何とか最後まで投げ出さずにいられたのだろうと思います。現実の行動との誠実さの一致において、とても説得力のある物語でした。忘れられない一冊です。

生きていますと不思議なことが起こるものです。
この本を読み、読後感を書き終えた2016・4・25・AM9:50  我が家で預かっていた14歳の愛犬 が、散歩中に突然 横倒しになり、そのまま逝ってしまいました。前日まで元気で食欲もあったので、すぐには受け容れられません。朝起きて彼の寝床に、おはようと声をかけても答えてくれる主はもう居ないのです。苦しまなかった事を感謝するしかありませんが、ぽかっと空いた穴は当分埋められそうもありません。この物語の最後の『フック』の淋しい旅立ちが教えてくれたものは、
『ある日 突如として 彗星のごとく現れ、彗星の如く消えてゆく』…

この写真は鬱陶しさを吹き飛ばし、暫しの間心を和らげてくれそうなので、お願いしてお借り致しました。垂れ込める空に、負けずに咲く花たちの力強さが届きましたでしょうか?またお便りさせていただけますように。
どうかごきげんよう

                                                                           清月蓮

 

 

彗星物語〈上〉 (角川文庫)

彗星物語〈上〉 (角川文庫)

 

 

 

彗星物語〈下〉 (角川文庫)

彗星物語〈下〉 (角川文庫)