花の降る午後に

~宮本輝さんへの手紙~

【40】『優駿』宮本輝著 上下巻

宮本 輝様

庭の梅も枝いっぱいに開花して、今日は立春です。春の暖かさへ一歩づつ向かっています。まだ朝の厳しい寒さは続きそうですが、お変わりございませんか。今日は、懐かしい『優駿』を手に取りました。寒い時期だからこそ読み返したい一冊でした。 

f:id:m385030:20170204175400j:plain

この写真は北海道ではありませんが、見た瞬間に『優駿』を読みたいと強い衝動が起こりました。自由に草原を馳け廻る姿は、無事に『ダービー』を終え『トカイファーム』に帰って来た『オラシオン』に見えてきます。幸せそうに草を食む姿がとても幸せそうに見えて、お借り致しました。

 

このお話の最後まで物語の成り行きに、また、『競馬』という知らない世界に引き込まれてゆきました。   肌馬、種馬、当歳、追い切り、二白流星、軸にヒモ、馬ごみ、脚色、ハミ、ソエ、キャンター、あぶみ…聞きなれない専門用語が次々飛び出します。でも、あまりの力強さに惹きつけられ、そのまま読み続けました。終章『長い流れ』では、どうか『オラシオン』が事故に遭うことなく、無事にダービーを走りきって欲しいと祈るような気持ちになりました。短編『不良馬場』が胸をよぎったからです。なんて読みごたえのある作品でしょう。この中に『博正』が父に買ってもらった本『名馬・風の王』が出てきます。私も初めて『優駿』を読んだ時、すぐに探し出して読みましたが、物言えぬ『アクバ』に愛されて育った『シャム』と『優駿』の『オラシオン』が、私の中で1つに繋がりました。

この物語は、人や出来事に必ず付いて回る『運』について一貫して書かれています。『和具 平八郎』が会社の命運をかけて買った馬券は何故当たったのでしょう。そして後には、会社の危機を翻す為に、大企業の吸収に甘んじ、自分は第一線から潔く身を引きました。社員とその家族の生活を守る為でした。

『運』が良いとか悪いとか、世間でよく言われますが、ここに書かれているのは《『運』の裏側を見なければならない》と言うことです。『運』はそれを引き寄せる為に、一人の人間が成して来た行為や、結びついた人々との『縁・えにし』に依るものなのです。『渡海 博正』の『オラシオン』の誕生への祈りが、『久美子』を振り向かせ『和具平八郎』を夢中にさせ『砂田』を微笑ませ『吉永』と『藤川 老人』を動かしたのです。そして結果的に、幸運な奇跡をも連れてきたのだと思います。サラブレッドはその血脈を人智により交配させ、人口的に創られた生物です。けれど、その遺伝は、姿形、脚力だけではなく『精神の遺伝』として受け継がれていると書かれています。人も馬も、もしかしたら同じかも知れません。「遺伝子だよ」と簡単に片付ける人には分かり得ない秘密の暗号が『優駿」に書かれているのです。

あと少しすれば春が来るこんな時期に、10日ほど暖かい国に逃げて行きたい様な気もしますが、貴方の本をこの寒さの中でもっと読んでいたい気持ちの方が強いです。お身体を大切にお過ごしくださいますように。どうかごきげんよう

 

                                                                              清月  蓮

 

 

優駿〈上〉 (新潮文庫)

優駿〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

優駿〈下〉 (新潮文庫)

優駿〈下〉 (新潮文庫)