花の降る午後に

~宮本輝さんへの手紙~

【49】『夢見通りの人々』  宮本  輝著

宮本 輝さま

三月に入りました。貴方さまにおかれましては、古希を迎えられ、お元気にお仕事をされておられますこと、心よりお慶び申し上げます。本当におめでとうございます。私はポカポカと太陽を浴びるのが好きです。晴れた日は、近所をただゆっくり歩いております。どうか、のんびりした時間もお過ごしくださいますようお祈り致しております。今日は『夢見通りの人々』を読みましたので、お便り致します。

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 青空に向かって花弁を開き、精一杯両手を挙げているチューリップ達は、『夢見通りの人々』のようです。夜の場面が多いお話ですが、最後まで読み終わると、何故か、この写真が似合うと思いました。とても色彩が美しく、思わず笑みが溢れそうなのでお借り致しました。

『夢見通りの人々』の住人たちみんなは、ざっくばらんで、直裁的です。どの人もこの人も、自分の気持ちを迷わず言葉や行動に直ぐ表してしまいます。読んでいる間中、ニヤニヤが止まりません。まだ観ていないこの映画の映像がクッキリと浮かび上がる気が致しました。躍動感に溢れ、商店街の夜の街灯や人影までもが浮かび上がる描写に感嘆しております。今日は登場人物の「女の人たち」に目を向けて書いてみたいと思います。そこには、様々な衝動が起こした行動を、現実のものにしてしまう力強さを感じました。

年老いて自分の余命を悟った『トミ』は、血の繋がりのない『春太』の優しさに触れ、残りの財産を彼に上げようと行動します。『太楼軒の娘・美鈴』は、育ての親の方が、実の親より好きだとはっきりと言い、外交官になる為に『アメリカン・スクール』に入ります。『時計屋の息子』と逃避行に出た『理恵』は、好きな相手でも、子供の父親にはしたくない意思を固めて実家に戻ります。美容院の『光子』は、かまぼこ屋の二階に下宿している『春太』が、自分に寄せる想いを知りながら、肉屋の元ヤクザ『竜一』に男を感じています。そしてそれは自分には受け入れ難い道であろうと考え、誰にも黙って、故郷へ帰って行きます。スナック『シャレード』の『奈津』は、永遠に手に入れられなくとも、美しい自分でありたい気持ちと、自分の美意識に適う、若くて美しい男を追い求める事をやめません。   この商店街に住む「女の人たち」は、自分をしっかり見つめ、同時に未来を見ています。そして、その未来に向けて、迷いなく行動しています。出来そうで難しい。でも、それに向かい昂然と決意して行動を起こすのです。小さな商店街の片隅に、こうして生きる女達がいるのは、頼もしい。その女達を見つめながら、『春太』は、人の事を思いやり、自分の不甲斐なさを自覚しながら『詩』を書き溜めています。まだ頼りないけれど、ひたすらこう信じているのです。『詩こそ文章による最高の芸術だ』と…そしていつか自分の詩集を出そうとお金を貯めています。難解な言葉を使わない、生涯に一冊だけの詩集の為に。

私の育った時代のせいにするつもりはありませんが、まだ自分の中で何も確立出来ていない時期に、いつの間にかという感覚で母親になって、今日まで疑問も持たず生きて来たような感覚に、今頃になって気付いています。ですから、この中の「女たち」はとても輝いて見えました。大阪ミナミの片隅の商店街は、今日も、こんな「女たち」が逞しく生きているのでしょう。

世の中は毎日毎日、驚くようなニュースに満ちています。心が塞いでしまうこともよくあります。その上、同年代の有名な方々の訃報が届いたり…でも、自分の足元からしか何も出来ないと言い聞かせて、自分の立ち位置を考える日々です。またお便り致します。ご自愛下さいますように。どうかごきげんよう

 

                                                                       清月 蓮

 

 

夢見通りの人々 (新潮文庫)

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