花の降る午後に

~宮本輝さんへの手紙~

【79】『流転の海』全9巻完結 に寄せて

宮本 輝 さま 

お久し振りでお便り差し上げます。
『流転の海』の最終巻『野の春』単行本が、先月末に発売になりました。
本当におめでとうございます。どんなにか安堵された事と思います。発刊以降の講演会、出版祝賀パーティー、テレビ出演、ラジオ放送等の、お忙しそうなご様子に、お手紙を控えておりました。もうご自宅でいつもの生活に戻られましたでしょうか。ゆっくりご旅行などもできればいいのですが…
本当に37年間お疲れさまでした。

私も数ヶ月前に、先生の作品についての読後感を全て書き終え、心身が整理されたような穏やかな日々を過ごしておりました。
その間『流転の海』1巻から8巻までを3度読み返しました。読んでも読んでも、私の力では書き表せそうにない大きな世界に、悄然とせざるを得ませんでした。海のように広く、物語の展開に沿って次々寄せる波に漂うばかりで、言葉が具体的な形を見せてくれません。ですが『流転の海』を読み進める中で、自分の体験や、それによる過去への連想に繋がる情景が浮かびました。今までのお手紙には、自分のことなど要らぬことだと、意識して書かずにおりましたが『流転の海』の読後感には少し書いてみたいと思っております。
読みながら、そう言えば、私も購入した本の間に挟んであったハガキに「どうか、読み始められた方々が生きてる間に完結して下さい」などと書いた事を思い出したり致しました。その頃、このシリーズ以外にも次々作品を発表されていたからです。それでもこの日を迎えられて、本当に心よりお慶び申し上げます。
今日は、初めて友人の薦めで『青が散る』を読ませて頂いた頃のことを、思い返しております。夜になり1日の仕事を終えて、本を脇に挟んでベットに向かう時、どんなに幸福な気持ちでしょう。その日に何が起ころうと、温かい布団にくるまれて本を開く時間は、全てを忘れて作品世界に惹き込まれてゆけました。こんな気持ちを一人でも多くの方々に知って頂きたくて、ブログのかたちでお便りしております。
今日はお祝いの気持ちをお伝えして、また改めまして『流転の海』についてお便りさせて頂きます。くれぐれもお身体ご自愛のほど。この前のNHKテレビで仰っておられた「作家としての70代」に、豊かな作品に取り組まれますことを楽しみに致しております。どうかごきげんよう
写真は晩秋の美しい一枚をお借りしました。

                                                                      清  月      蓮f:id:m385030:20181124194601j:plain