花の降る午後に

~宮本輝さんへの手紙~

【36-4】『錦繍』宮本 輝著 その4

宮本 輝さま

異常気象が叫ばれて久しいですが、冬の夜空にひときわ輝く宵の明星を見つけますと、とても嬉しくなります。伊丹の空からも金星の輝きが見えていると良いのですが。今日は『錦繍』の最後のお便りを致します。 

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この写真は不思議な世界が写し撮られています。手前に浮かぶ七色の葉は「現在」を現し、水に映る上の方の木の枝の間から明るい「未来」の空が見えています。そしてその間を素早く走り過ぎる「過去」の世界…しかも『錦繍』を物語る木の葉によって描き出されているのです。まるでこの物語の為に現れたように感じましたのでお借り致しました。

最後のお便りには、ここに登場する3人の女の人達について書いてみたいと思います。『亜紀』『由加子』『令子』の3人は『靖明』の人生に深く関わっています。それぞれに愛した形が違っても『靖明』は彼女達にとって唯一無二の存在であることに変わりはなく、どうしても失いたくない人でした。それにしても『亜紀』も『由加子』も女の宿命のようになんと受け身であったことでしょう。恋をして結ばれた『亜紀』は、疑う事もなかった『靖明』の愛情に裏切られてしまいます。『靖明』の心をずっと占め続けていた『由加子』でさえ、最後に『何事もなく別れられる』と思った『靖明』の心を感じて、絶望してしまったのでしょう。  一方『令子』はと言えば、最初から何と積極的であったのだろうと気付きます。少なくとも受け身ではありませんでした。『靖明』を愛していたことは、『亜紀』と『由加子』と変わりはないのですが、あくまで自分の生活を見つめ、自分の中で強く『靖明』に愛情を注いでゆきました。たとえ女として見てくれずとも、罵られようと、尽くすだけだとしても、自分の心を揺るがせる事がありませんでした。恋の手練手管などではなく、逞しい生命力を感じます。そして最後には『靖明』の心を捉えてしまうのです。

この中に、女にとって『嫉妬と愚痴』は、切り離せないものであると書かれていました。自らを省みましても、それは否定できず、それ故に、運命の落とし穴に落ちるのかも知れないとさえ感じます。もう1つ付け加えるならば、うわさ話が好きなことも女の否定できない一面です。これらによって、大切な人との繋がりを失ったり、見落としてはいけない事を掬い取れなかったりするのかも知れません。大地に脚を踏ん張って、知識のない頭をフル回転させ、逞しく生き抜かねばならないと感じております。強く思いますのは、愛情は相手から何かを期待せず、ただ自分の中で育ててゆく事がもしかしたら幸せへの近道かも知れません。

今日は明るい日差しが、眩い位に部屋に差し込んでいます。この作品は一気に読んでしまいましたが、この後の長編は時間をかけて、もう少しゆったりと愉しんで読んでから、お便りしたいと思っております。年末の慌ただしい時期ですが、良いお年をお迎えくださいますように。また新年になりましたら、お便り致します。どうかごきげんよう

 

                                                                                           清月  蓮